院長ブログ

2019.09.08

新宿抗凝固セミナー 2019年7月30日 国立国際医療研究センター病院

「NCGMにおける血栓症管理の現況」

国立国際医療研究センター病院 第二循環器内科 医長 原 久男 先生

「がん患者における静脈血栓症の治療  Onco-Cardiologyの役割」

大阪国際がんセンター 腫瘍循環器科・成人病ドッグ科 主任部長 向井 幹夫 先生

9月に入り若干涼しさも感じられるようになったと思いきや、昨日、9月7日は、台風の影響でまた夏に逆戻りしたような暑さでした。汗をかくような陽気で気をつけなければならない疾患に深部静脈血栓症(DVT)があります。ふくらはぎの深部にある静脈に血の塊(血栓)ができる疾患で、血栓がはがれて肺静脈へ流れると血栓は肺静脈で成長し肺梗塞を引き起こし命に関わる危険な疾患です。エコノミークラス症候群や震災の被災者が狭い自動車の中で何日も歩かないで過ごしたために亡くなってしまう原因がこの血栓症です。

ピルを服用していた女性に大腿静脈~外腸骨静脈にいたる巨大な血栓ができていたのを単純CTで見つけた経験はあります。ピルは血栓症のリスクファクターですので容易に疑うことができました。

7月30日の講演会で血栓についての話がありましたので、今回は、そのようなリスクファクターのない方に生じた深部静脈血栓症の自験例について述べます。

患者様は、30才代の男性です。生来至って健康で、特に既往歴はありません。服薬している薬もありません。そのような方が、左ふくらはぎ痛のために私の外来を受診してきました。特別、ふくらはぎを損傷するようなことはしていないとのことです。診察所見ですが、皮膚に発赤、熱感は認めません。ふくらはぎを握ると明らかに痛みを訴えます。若干左ふくらはぎが右ふくらはぎより腫れている印象がありました。どう考えますか?ただの筋肉痛ですか?皮膚には所見がありませんので皮膚由来の痛みは否定して良さそうです。

このようなとき私は、こう考えます。誰でもこのんで医療機関には行きたくないものです。仕事もあるし、待たされたりもするし、なにより面倒くさいからです。それなのに、医療機関に来たからには、ただの筋肉痛ではないものを患者様自身が感じているからだと考えます。しかもふくらはぎを損傷するようなことはしていないと言っております。したがって、根拠もなく筋肉由来の痛みと決めつけるわけにはいきません。しっかりと調べる必要ありと判断しました。

皮膚由来の痛みは身体所見から否定しましたから、残るは筋肉、血管、神経、骨いずれからの由来かを調べるわけですが、検査手段としてMRIを選択しました。深部静脈エコーを行う技量があればエコーも検査手段となりますが、技量に左右されずに調べられるMRIを無難に選択しました。

結果は、下腿の静脈が異常に拡張し、T2で若干腓腹筋が高信号でした。DVTと診断するに十分な所見です。早速、都立墨東病院救急に治療をお願いしました。

後日、都立墨東病院から情報のフィードバックがあり、血栓は小さいけども肺静脈にも認めたとのことで、ワーファリンを投与し経過をみているとのことでした。また、患者様は、前日、暑い中、汗をだらだらかきながら野球のキャチャーの姿勢で庭に水をまいていたとのことで、それで血栓ができたのだろうとのことでした。

汗をだらだらかくことで、血液は濃縮して固まりやすくなります。また、キャチャーの姿勢を長く続けたためふくらはぎで血液の流れが悪くなり固まりやすくなります。庭に水をまいたことが原因とは患者様も思わなかったことでしょう。もし、ただの筋肉痛と診断をして湿布でも処方して終わっていたら、肺にも血栓があったのですから、最悪の事態になった可能性もあったなと思われるケースでした。

血栓のリスクファクターのない方でも状況によっては、血栓症を発症します。リスクファクターを有する方は注意してください。

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